今回はファンライドに寄稿した記事の解説です。
https://funride.jp/column/cycling-science5/
ファンライドのサイエンスコラムで HRV という概念をご紹介した際に自律神経に触れました。今回はこの補足説明になります。
自律神経=内臓の神経
私たちの脳は神経を介して体の隅々までシグナルを送ります。
例えば筋肉を思い通りに動かすには運動神経に情報を送って特定の筋肉を動かしています。また神経は外部の情報を得るためのセンサーとしても機能しています。これは感覚神経と呼ばれており、感覚器官(視覚・聴覚・温痛覚・触覚・味覚など)を通して外部の情報を収集しています。
そして私たちの体の中で三つ目の大事な神経が自律神経です。自律神経とは内臓機能を総合的に司る神経のことを指します。自律神経の中枢は脳や脊髄に存在し、ここから末梢神経を経由しして各臓器にシグナルを出します。 自律神経は筋肉と違って一つの臓器を意図的に動かすことはできず、基本的には周囲の環境や体調に応じて自動で脳が調節しています。
また、各臓器に個別に指示を出していると時間とエネルギーがかかります。実際の体は一つ一つの臓器に指示を出すのではなくモード変換で多数の臓器を一気に操作して入るシステムになっています。
つまり、一つの指示を出すだけで、全身の臓器に一斉に指示が通るようにシステムが組まれています。なんと効率的。
ゲームをやったことある人であれば、ドラゴンクエストで仲間にいちいち指示を出すのではなく、「ガンガンいこうぜ」と戦略だけ指示を出す、のがイメージしやすいかと思います。 我々の身体も同様に、戦略だけで臓器をコントロールし、時間とエネルギーを節約しています。
自律神経がとる戦略は大きく二つに分けられます。

戦闘モード:交感神経
一つ目は交感神経モードと呼ばれ、これは戦闘時に設定されるモードです。
イメージとしては試合前の緊張した状況を思い出せばいいかなと思います。
戦闘時は敵から逃げるor戦うというコマンドをとるため、筋肉に大量の血液が必要となります。このために心拍数がぐっと上昇し、血管も拡張され、体の隅々まで血液を送ります。また、外部情報をたくさん取り入れて戦況を有利にするため、得、瞳孔を拡大させて光を目の中にできるだけ取り込むようにします。多少の傷みに気を取られていては目の前の敵に集中できないため、痛み神経をわざと麻痺させてあまり痛みを感じさせないようにします。そして戦闘と関係ない内臓の働きを抑制します。 緊急事態の時に、食事や排泄をしてしまっては命取りのとなるので、このモードの時は食欲が減退しトイレにも行きたいとは思わなくなります。これが戦闘モードです。
余談ですが、「あの人のことを思うと食事も喉を通らない」という表現は、おそらく交感神経優位による食欲の低下だ思われます。好きな人のことを思う時、すなわち緊張状態に入ると交感神経が優位になるので食欲が減退しているのだと思います。
休息モード:副交感神経
一方で副交感神経は、その名の通り交感神経の対になるような存在で、休息に関わる時に活性化する神経です。
簡単に言うと睡眠と食事を促すモードです。副交感神経が優位になるとまずお腹が空きます。加えてとても眠くなります。
これは体に休めと指令を出してるからです。有名な漫画 ONE PIECE では主人公のキャラクターが大量の食事を取った後、グーグーと爆睡している描写がありますが、これは副交感神経の働きを考えればとても自然なことです。
自律神経の切り替えがパフォーマンスに直結する
さてこの自律神経ですが、アスリートと密接に関係があります。なぜならば自律神経の失調はパフォーマンスの低下に直結するからです。
自律神経は先ほど説明した通りモードの切り替えで操作されています。自律神経が乱れるような生活習慣をしていると、このモードの切り替えがどんどん下手くそになってきます。 戦闘モードになって頑張って欲しい時なのに、体が勝手に休息モードに入ってしまうのです。レースでいえば、アタックを仕掛けたいのに心拍数が一緒に上がってこないため、筋肉は思い通り動かず、結果パフォーマンスが下がります。
自律神経がへたれる前に休息する
ではこの自律神経の失調をどのように改善していくか。
正直に申し上げると、自律神経を一発で劇的に改善するような治療法は今のところ見つかっていません。
現在での最善策は、悪化する前にタイミングよく休むと言う方法です。もし悪化したまま放置してどんどん体を追い込んでしまうと、オーバートレーニング症候群と呼ばれる自律神経の不可逆的な失調状態に陥ってしまい、日常生活ですら支障が出てしまいます。このように悪化する前に予防するということがとても大切です。
自律神経のモニタリングとしてHRV
そこで自律神経が悪化する前にどのタイミングで休息を挟むべきか。それを見極めるツールとして今回のサイエンスコラムでは HRV をご紹介しました。(詳しくは記事をご参照ください)
HRVは24時間到着の心拍計を24時間を装着する必要があるためデバイスを持っている方に限られますが、運動以外のストレスによる影響も考慮されているため、アマチュアライダーにこそ必要なツールだと考えています。
私の調べた限りですが、サイクルコンピューター大手Garmin やPolor、またアップルといったメーカーは腕時計型デバイスに HRV測定機能を掲載しています。
https://www.garmin.co.jp/minisite/garmin-technology/health-science/
https://support.polar.com/ja/hrv-data-export
https://support.apple.com/ja-jp/HT204666
それ以外にも最近は心拍計デバイスのサブスクリプションサービスなども展開されており、この分野への期待が高まってるのがうかがえます。
https://www.whoop.com/
練習量の調節や、日々の体調管理にも。ぜひこのHRVを活用してみてください。
まとめ
・自律神経は内臓担当の神経
・疲労がたまるとモードの切り替えがへたくそになる
・失調する前に休むことが唯一の治療
・HRVを活用して自律神経の状態を観察できる
コメントを残す