ご無沙汰しております。Ranです。
新生活も落ち着き、少し余裕が出てきたので、またのんびりとこのブログを再開します。
さて、今日はアイシングに関するとても興味深い発表を見つけたので皆様にご紹介します。
神戸大、肉離れなどの重い筋損傷後のアイシングは筋再生を遅らせる事を確認
https://news.mynavi.jp/article/20210425-1878827/
これは神戸大学と千葉工業大学の共同研究によって行われた、「アイシングは本当に効果があるのか?」を調べた研究です。
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html
痛めたらすぐ冷やす…というけれど
筋損傷は文字通り、筋肉にダメージが加わって組織が壊れることです。例えば落車で太ももを強打して痛い。これは代表的な外傷性筋損傷です。
一方、筋肉痛も実は筋損傷なのです。人間には、「ちょっと傷つくと次は傷つかないように前より強めに修復する」という機能が備わっています。これを利用して、トレーニングによって意図的に筋肉を傷つけることで、トレーニング前よりも少しだけ強く修復させて筋肉を強区していく。これが筋トレの真意です。
さて、この筋損傷ですが、初期治療としては、RICE療法が有名です。これはRest(安静)、Ice(アイシング)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字を取った処置で、この初期対応で回復が早くなると言われています。最近ではこれにProtection(保護)とStabilization/Support(安定・固定)が加わったPRICES療法が提唱されています。(PRICE療法は私の記事でも紹介しています)
中でもアイシングは手軽なこともあり、良く実施されています。
炎症は治す行程
さて、アイシングの効果をお話する前に、まず「なぜ痛むのか」を考えましょう。
怪我をすると、患部はどのようになるでしょうか。怪我するとまず痛みが出ます。そして赤く腫れて熱を帯びてきます。内出血が起きたら青あざができたりすることもあります。ご経験ある方も多いでしょう。
さて、これらの反応は、実は全て「怪我を治すための反応」なのです。
まず痛みですが、これは「これ以上身体を動かすともっと傷ついちゃうよ」という身体からの緊急信号です。痛み刺激が脳に伝達することで、その部位を動かさないようにさせます。これにより二次被害を防いでいます。
さらに、怪我を治す、つまり傷ついた組織を修復するためには、大量の栄養(血液)が必要になります。そこで、傷ついた細胞はまず緊急信号を周囲の組織に出します。すると信号を受けた組織は熱を作り出します。
血管は熱が籠ると拡張する作用があるため、損傷した組織近くの血管はどんどん開いてどんどん栄養を運びます。
これが怪我した時の熱と赤みと腫れの理由です。赤みは血流が豊富になっている証拠で、腫れは血管から栄養剤が組織に流れてきた結果なのです。
このような、人が傷ついた組織を感知して、治そうとする行程のことを炎症と呼びます。(ちなみに上記の症状である、痛み、赤み、熱、腫れは炎症の4兆候と呼ばれています)
炎症というのは決して悪者ではなく、身体が自分で自分を治そうとする自然な行程なのです。しかし、炎症が過剰に働きすぎると、今度は別の問題が出てきます。治癒が遅くなってしまったり、別の病気になってしまったりするのです。アレルギーなどは炎症が暴走した例の一つです。無害なものに過剰に反応した結果ですね。
炎症は、強すぎても弱すぎてもダメで、適度な炎症が治療につながるというわけです。
アイシングは治療を邪魔する?
さて、この上でアイシングに戻ります。アイシングは文字通り、患部を冷却して熱をとります。熱を取ると、先ほど説明した血管を開く作用が弱まっていきます。
なぜアイシングが重要かというと、筋損傷の場合、過度な炎症が筋肉の回復を遅らせると考えられていたからです。炎症をコントロールする目的で、アイシングが推奨されてきました。
しかし、昨今の研究により、筋肉に関してはアイシングをしない方が長期的には回復が早いのでは?と言われるようになってきました。つまり炎症という治療行程を邪魔しない方が筋肉のために良いのではないか、ということですね。実際、筋損傷後にアイシングを施した実験では、筋再生が遅れたという報告と、筋再生を阻害することはなかった、という報告が両方存在する状態でした。
そこでこの研究チームは、できるだけ肉離れに近い筋損傷をマウスに起こし、アイシングの影響を調べることにしました。
研究の内容
肉離れを起こしたマウスの筋肉を損傷直後に30分間、2時間ごとに3回行い、これを損傷2日後まで継続しました。(このアイシングの方法は臨床でも推奨されている者です。)
アイシングをした群としていない群を2週間後に再度比較し、筋肉の再生具合を観察してみると、アイシングをした群の方が筋の断面積が小さいことがわかりました。つまり筋肉の再生が遅延している可能性があるのです。
さらに、この行程で起きていることを確認するために、両方の群で筋肉を採取し、顕微鏡で変化を観察しました。
結果は、アイシングをすると、炎症細胞があまり集まっていないことがわかりました。つまり、傷を修理にしにくるメンバーが集まってきてないんですね。
図1 筋損傷2週間後の筋線維横断面と横断面積ごとの分布
上:筋損傷後に無処置の動物の2週間後(non-icing Day 14)とアイシングをした動物の2週間後(icing Day 14)の筋横断面
下:筋線維横断面積ごとの分布(%)。アイシングを施すと(黒四角)、2週間後、再生した筋線維は横断面積の小さい=細い筋線維が多い

図2 筋損傷後の損傷筋細胞内に炎症細胞が入っている割合(%)
白:無処置(non-icing)、黒:アイシング(icing)。 アイシングをした動物はどの時点でも、損傷した筋に炎症性細胞があまり入っていない
これは当然の結果で、炎症細胞たちは基本的に血管に乗って移動していますが、アイシングすると患部の血流が減ってしまうので、傷再生メンバーの集まりも悪くなってしまいます。
以上のことから、筋損傷の後にアイシングを施すと、炎症細胞の集合が遅れ、それが原因で筋の再生が遅れる可能性が示されました。
研究でわかったこととわからないこと
アイシングでは筋肉の再生が遅れる可能性があることがわかりました。さてこの研究結果をどう考えるか。
まず、マウスの実験であるため、人にすぐ応用できるかはわかりません。また今回は肉離れモデルを採用していますが、高速で運転中の落車や交通事故など、高いエネルギーを伴う外傷の場合、これと同様の結果になるかはまだわかりません。またアイシングは痛みを緩和させる効果もあります。
これを踏まえて、私個人としては、「痛みが不快じゃなければしなくて良い」と考えます。アイシングは炎症のコントロールとして手軽に実施できます。またアイシングをしたからといって筋肉の回復が大きく遅れるわけではありません。強い痛みや腫れを伴う場合は、アイシングを実施してよいケースでしょう。
一方で、トレーニング後の筋肉痛のような、痛みが軽微なケースでは、アイシングはしない方が良いと考えます。ガチトレーニーの方はきっと筋肉痛もご褒美だと思ってらっしゃるでしょう。
まとめ
・適度な炎症は治療を早める
・筋肉痛後にアイシングは進めない
・アイシングが効果ある場合もあるかも….
参照:神戸大学
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html
Journal of Applied Physiology, 07 May 2021
Icing after eccentric contraction-induced muscle damage perturbs the disappearance of necrotic muscle fibers and phenotypic dynamics of macrophages in mice
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