ワクチンについてのお話。
前半はこちら
昨日から引き続き、今日はコロナワクチンにより特化した内容で。
Q. コロナ流行からワクチンができるまで早すぎない?
A. 過去の技術蓄積、大国が本気出した、あとは幸運だったから
かつては10年かかると言われていたワクチンも1年ほどで完成になったことには驚きでした。
早く作ったものは不具合が多い
じっくり作ったものは丁寧で安心
っていう考えは当然ありますよね。だからこそこんなに早く完成したワクチンには不安が残ります。
なんでこんなに完成が早かったのか。これは複数の要因が絡んでいます。
1. ゲノム技術の向上
まずそもそもワクチンを作る技術が発達したことが一つ理由にあげられます。
昨日もお話したように、ワクチンはウィルスのパーツです。ワクチンを作るためには、ウィルスの設計図であるDNAもしくはRNAを解読する必要があります。これをゲノム解析といいます。
昨今の遺伝子治療のニーズが高まり、新型ウィルス(SARS, MARS)が猛威をふるった歴史を踏まえ、ワクチンを作るためのゲノム解析技術は飛躍的に向上しています。
また得られたゲノムデータを解析するパソコン側の性質も上がっていたこと、データを分析する手法が確立されていたことetc….と過去から積み重ねてきた技術があったからこその早さです。
かつて人の遺伝子情報を全て解析するというヒトゲノム計画が行われました。およそ13年の年月を費やしたこの解析ですが、現在の手法で行えばたった1日で完了してしまいます。技術の進歩万歳。
2. アメリカ始め大国が本気出した
米国トランプ政権下の「ワープ・スピード作戦」ではワクチン開発事業に約170億ドル(約1兆8千億円)の資金投入が行われました。さらにあらゆる手続き業務を簡略化し、ワクチン製造を加速させました。
これは手続きを簡略化しただけであり、必要な試験をしていない、というわけではありません。ワクチンの効果を測る期間はどうしても必要です。本来であれば、一つを試してダメならまた次の….と順々にやっていく試験を、可能性がある試薬は一気に同時並行で試験を行うことで試験をやり直す手間を省け、結果短期間でのワクチン製造が可能になりました。
しかし、これは異例中の異例です。この短期間でのワクチン製造は大国が人やお金を一極集中させて成し遂げた、いわば「ヤシマ作戦」です。もう一回やれと言われても、資金面・人員面の確保が難しいのではないでしょうか。
3. 幸運にもウィルスの種類がワクチンを作れるタイプだった
一つ幸運だったことは「コロナがワクチンを作れるタイプのウィルスだった」ことです。
全てのウィルスに対してワクチンを作ることはできません。というのも材料のウィルスを人工的に増やす必要があり、それができないタイプのウィルスではワクチンそのものが作れないんです。
幸いなことに、コロナは増やせるタイプのウィルスだったため、遺伝子の解析やワクチンの開発がスムーズに行きました。もしコロナウィルスが人口的に増殖ができないノロウィルスやHIVウィルスのような性質であったら、こんなに早くワクチンは作れなかったと思います。
Q. まだ作られたばっかでデータも集まってなくない?
A. 2/19現在で2億近く打たれているよ
これを書いている2/19現在、世界中でおよそ1.88億人に接種が完了しています。
Googleで”ワクチン”と調べると、リアルタイムの統計情報を表示してくれます。
特にイスラエルは国家戦略的にワクチン接種を進めており、すでに人口の3/4に対して投与が完了しています。イスラエルでのワクチン効果を調査した論文はまだ公式出版されていませんが、プレスリリースの段階でかなり高い効果が認められたと発表されています。
ワクチンの予防効果、「実世界」でも94% イスラエルの研究
ワクチン接種で発症・重症が激減、臨床と同等の有効性確認
一つ欠点をあげると、日本人を含むアジア人のデータが少ない点です。
医薬品の場合、投与された人の属性(性別、年齢、人種、基礎疾患、妊娠中など)でお薬の効き方が変化することがあるため、このデータを属性別に調節する必要があります。
しかし実際のところ、同じ種類のmRNAワクチンは人種間での効果の差が大きくありません。これを考慮すると、他の人種データだけだったとしても、安全性に関して十分に信用に足ると予想されます。
今後必要になる情報
以上のことからも、現在のコロナワクチン接種は安全かつ効果的であるため推奨されます。
一方で、まだ不確かな点があるのも事実です。
1. 日本人でのデータ
先述のように、日本人のデータはありません。ですのでこれらは集める必要があります。
2. ワクチンがどれくらいの期間有効か
ワクチンで獲得した免疫がどれほど持続するのかはまだわかりません。ワクチンの効果が時間が経つときれることはよくある話なのですが、「いつ効果がなくなるか」はワクチンによって様々。
現状はコロナワクチンが効いている情報しかないので、効果がなくなる時期や因子を含めて追加研究が必要です。
3. 他人にうつすのをどれだけ予防するのか
ワクチンを打った人が感染した時に、他人に感染させるリスクを下げる効果があるのかもはっきりとわかっていません。
4. ワクチンを打つ前に感染した人は打たなくてもいいのか
一度かかった人はワクチンは必要ない、と思われるかと思いますが、コロナの場合、一度の感染で抗体がきちんと作られずに再度感染した例も報告されています。
一般の方への接種までにデータはもっと揃う
医療者380万人への接種が始まります。これだけのデータが揃えば、一般への接種が始まる前に、
日本人を対象としたワクチンの効果・危険性などに関して確実な情報が明らかにされるでしょう。
最後に、繰り返しになりますが、ワクチンは現行治療法がない致死的な感染症に対しての切り札といえる治療法です。新生児を育てていらっしゃる親御さんの中で、コロナが怖くてワクチンを控えている、という方もいらっしゃるようですが、日本でワクチン投与を指定されている感染症はコロナウィルスよりも致死的な病気ばかりです。大袈裟でなく、現代の医療を持ってしても死に至るか、重篤な後遺症をきたすものです。できる限り早い段階での接種をお勧めします。
わかりやすい=正しい?
ワクチンに関して熱心に調べていけば行くほど、不安になってきますよね。
SNSやインターネットでは個人の意見と客観的なデータが混同されて表示されます。
これらは本来全く違うものなのですが、科学データの取り扱いに慣れていない方には、情報を見分けるのは困難です。
加えて、まともな科学をやった人間であればあるほど、「断言」するような表現は使えません。
「〜かもしれない」「可能性がある」「であろうと推測される」などと曖昧な表現をされると、余計不安になりますよね。しかし科学ってそういうものなのです。
そして得てして不確かな情報源ほど、はっきりとした口調で断定するような表現を使います。
はっきりとした口調で端的にわかりやすく話されると、信憑性が増してくるのが人の性。人は自分が理解できるものを正しいと認識しやすくなります。(これを認知的流暢性と言います)
「ワクチンは副反応が出る危険性はあるけど、それよりも効果の方が大きいから使うべきです」って言われるよりも「ワクチンは害である」って断定された方が、わかりやすくて正しく見えてくる。
これが、反科学、反ワクチン派が誕生する理由の一つでしょう。科学ってわかりにくいんだよ。
以前こちらの記事でもボヤきましたが、このわかりやすさと正確性どちらを採用するかは科学者がいつも悩んでる点です….。わかりやすくしようとすると、情報ってどんどん歪んで正しくなくなる。難しい。
このように大変悩みながらも、私たちができることって、情報発信を続けてデマを信じてしまう人をできる限り減らしていくことだと信じてこの記事を書きました。
みなさまあまりにも簡潔な情報にはご注意を。
参照
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64078
https://www.covid19-jma-medical-expert-
www.technologyreview.jp/s/227969/the-chart-that-shows-how-well-get-back-to-normal/
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