厳密性とわかりやすさの凌ぎ合い

こちらは以前instagramに載せていた記事から抜粋し編集したものです。

 

自分の思想メモをinstagramから始め、ブログに載せ始めてから、いろんな方々からわかりやすいと評判をいただいております。これはこれで大変嬉しいことなのですが、ここで一つ触れておきたい話題を。

わかりやすさと情報の厳密さは両立しえない

わかりやすさを追求すると、どうしても多少事実を歪めなければならなくなる、いわばトレードオフの関係です。私たち科学者や専門家は、正確さと理解のしやすさの狭間で闘っています。患者さんに説明する機会はたくさんありますが、そもそも背景にある知識に差があるので、多少事実と異なっていても、わかりやすさを優先します。イメージがわかなければ元も子もないからです。

一方で、科学者として、専門家として、その事象と向き合う場合は厳密性を最優先します。それがアカデミアだからです。一つの専門用語の違いも許されず、妥協しません。教授との議論や学会での質問などは、頭のCPUを駆使して挑みます。そして玉砕されます。最早知性の暴力です。そこにわかりやすさなど求められていません。あるのは、誤解を生まない厳密で正確な説明です。

専門家の意見がわかりにくい訳

アカデミアでの経験が増える、つまり専門家になればなるほど、わかりやすい説明というのは苦手になってきます。なぜなら求められる伝え方がまるっきり異なりますから。私たちはいつもこの厳密性とわかりやすさの狭間で闘っていますし、得意不得意が当然あります。ワイドショーでしどろもどろに説明している専門家を見ると、「ああ、きっと自分の中で正確に伝えたい思いと、わかりやすく伝えたい思いとで葛藤してるんだな」と同情してしまいます。

わかりやすい話の落とし穴

さらに加えてお伝えしておきたいのは、「わかりやすい話には裏がある」ことです。人間の心理上、わかりやすい、納得しやすい話はより真実味を帯びて聞こえてしまう傾向にあります。この人間の心理をうまく利用しているのが、詐欺やオカルトやマルチ商法、トンデモ医療などです。

トンデモ医療にハマる理由は説明がわかり易いから

トンデモ医療の特徴として、「理論が簡潔でわかりやすい」ところにあります。医師としてその説明を聞くと、あまりにもシンプルすぎてツッコミどころ満載なのですが、科学リテラシーのない一般の方にはその判断は難しいと思います。

一本筋の通ったきれいな論理で説明されると、説得力がまして本当のことのように聞こえてきます。怪しい代替医療が横行している背景には、私たち医者の説明にわかりにくいところがあり、より納得のしやすい説明を求めている患者さんが存在していることも一因にあると思ってます。世の中の事柄は、おそらく思った以上に複雑でややこしいんです。そんな簡単な理論で説明はつきません。(だから美しいんですけどね)

ということで、私はこのブログではわかりやすさを優先するため、専門家の方からみると多少とも事実を歪めた情報に見えるやもしれません。もしその筋の専門家がいらっしゃいましたら、是非とも知識の鉄拳制裁をお見舞いしてください。大歓迎です。


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コメント

“厳密性とわかりやすさの凌ぎ合い” への2件のフィードバック

  1. […] 情報の厳密性と妥当性に関してはこちらの記事でも触れています。 […]

  2. […] これが、反科学、反ワクチン派が誕生する理由の一つでしょう。科学ってわかりにくいんだよ。 以前こちらの記事でもボヤきましたが、このわかりやすさと正確性どちらを採用するかは科学者がいつも悩んでる点です….。わかりやすくしようとすると、情報ってどんどん歪んで正しくなくなる。難しい。 […]

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